世田谷新聞掲載 エッセイ集No.05

                         (平成15年03月06日

[それでも大好きなアメリカ]

松尾征治

 米国のイラクへの攻撃が近づくにつれ、反戦運動が世界各地で広がりをみせている。

但し、戦争が実際に始ろうものなら反戦運動が直ぐにも反米運動にとってかわる筈だ。DOWN WITH THE U.S.A. くたばれ アメリカ )のシュプレヒコール。火をつけられ燃え上がる星条旗。治安部隊にデモ隊から投げられる火炎瓶。それに対する催涙弾。怒号また怒号。いつも繰り広げられるテレビに映る過激な反米デモの映像だ。

 米国のイスラエル寄りの姿勢に加え、これからのイラク攻撃がイスラム世界では反米感情を更に煽っている格好である。

 昔、日本でも大戦中、鬼畜米英といったが、今の米国は、現在のイラクのサダム・フセイン政権、パレスチナ、イランの保守派にとっては正に鬼畜である。勿論中東に鬼は存在しないので、大悪魔、グレートサタンと呼んでいるが・………。

 しかし、それはそれ、反米デモに参加する若者も含め人々の多くは自由とアメリカン・ドリームを実現出来る米国に憧れを抱いている。イラクでも、パレスチナでも、、イランでも、その他のイスラム世界でも……。

 私の居たイランでは革命後二十数年も経ち、王制や革命を知らない世代が全人口の七割近くを占めるようになり、革命の意義が理解しずらくなっているのも事実だ。インターネットで自由に外国にアクセス出来るし、禁止されているとはいえ衛星テレビを見る者も多い。  従って、保守派の坊さん達がイスラム回帰を求め、情報面、生活面で鎖国的な政策を取り続けること自体が無理というもので、人々は、つてを頼って何とか自由の国、米国へ渡ろうと、その努力には涙ぐましいものがある。米国のビザが取れないので、取り敢えずカナダへという人も多く、イランなどテヘラン・タイムズの一面に連日カナダへの移住広告が出ているお国柄である。

 米国のロサンジェルス近辺には百万人を越えるイラン人が住むと、まことしやかにテヘランでは言われており、ペルシャ語のみのチャンネルのテレビ局もあり、テヘランジェルスとかイランジェルスとか呼ばれるぐらいイラン人の間では人気が高い。うまくカナダ経由米国に行けた者もおれば、中にはかつての私の部下だったアルメニア人女子社員の様に「カナダへのビザをアレンジしてやる」との業者の甘言に乗り、何百万リアルも騙されながら「初志貫徹の為、結婚せず、これからもがんばりたい」と言う者など悲喜こもごもで正に人生の縮図を見る思いがする。

 優秀な若者ほど国外脱出、米国移住を考える傾向が強く、中東では何処も米国への頭脳流出が大きな社会問題になっている。しかし米国に対する若者の憧憬がメデイアで伝えられることは少ない。従い開戦となって冒頭のような反米デモの映像が繰り返し報道されると若者の心象風景までは写し出されないだけに、結果として視聴者に実態と異なる理解をさせることになりかねず、そういった意味でも映像メデイアの報道の在り方が問われるところで、その点に注目していたい。